主ゼシ同盟の皆様に、アッカより愛を込めて?!

激しくネタバレ含みます。
















Distance











毎日繰り返す事。

何気ない習慣。

それを日課とひとは呼ぶ。





雪。

窓の外には鉛色の空と、そこから降り注ぐ、音の無い来訪者。
白い粉雪は、窓に付いては溶けて消える。
目が覚めた私の吐く息が白く伸びる。
「さむい。」
私は胸元から毛布を頭まで引き寄せて被ると、もう一度まどろみの世界に還ろうとした。
ヒュン。ヒュン。

定期的に続いてる風を切る音。
このところ毎日続いてる。この音。
原因はなんなのか、わかってる。
あいつが、やってるんだから。

「毎日毎日、よく飽きないもんだわね。」
規則的に聞こえてくる風切り音を聞きながら、寝ることを諦めて体を起こす。
寝起きの髪もそのままに、パジャマ姿のままベットから這い出して、窓際に立つ。
眼下には、剣を無心に振っている青年の姿が見える。
よく知った顔。いや、信頼すべき旅の仲間の顔だ。
彼の体が、右へ、左へ流れるように動いていく。
無駄の無い動き、力強い踏み込み。
剣技は、そこまで詳しい訳ではない私から見ても、無駄の無い鋭い剣先の軌道。
一緒に冒険していた時も、その剣技で、なんど助けられたか、数え切れない程だ。
それ以上に、私の呪文も彼を助けたと思うのだけども。
「また強くなってるんじゃないの。」
ため息まじりに本人には、聞こえるわけの無い声を上げる。
そんな私の呟きを他所に、彼の動きはさらに激しくなる。
実戦さながらの動きへシフトしていく。
隙の無い敵を倒すことのみを追求した直線な動きから、優雅に舞うような回転軌道の綺麗な動きなど、次々とその剣は彼の一部として風を斬る。
見ていて飽きない。
そう、これは私のここ1ヶ月間、毎日の日課なのだ。





剣を鞘に戻し、帯剣を肩からはずす。
荒い呼吸を吐きながら剣を右手に持ち、屋根の下へと歩き出す。
吐く息も白いが、自分から発した汗が湯気となって立ち上る。
今日は随分長い間練習してたからなぁ。
僕はそう思うと、屋敷に背中を預け、その場に座り込んだ。
雪は目の前を舞い、地面に溶ける。
「リーザス地方は、あんまり降らないってきいてたんだけど。」
誰にも問うわけでもない呟きがもれる。
剣を館に立てかけて、そのまま右手を伸ばす。
タオルを掴んで、頭から被る様にして汗をふき取る。
「ふぅ。」
ここに来てからというもの、剣技の練習ばかりしている。
他にする事が、あまりないというのもある。
僕自身、体を動かすという事が好きというのもある。
それよりも、抑える努力をしているのかもしれない。

自分の力を。

平和な世界に自分は必要ないのかも。と考える事もある。
言い換えれば、自分は世界で最強の殺戮者なのだから。
破壊神といえども、神をも倒す力。
半竜の力。
明らかに、ヒトのソレとはチガウチカラ。血ニウエタキケンなチカラ。
本当は、こんな力なんかいらない時代だったら良かったのに。
と思う事もあった。

でも、いろんな人達が、この強さを僕に与えてくれたから、僕は戦えたんだ。
最終決戦で、暗黒神と呼ばれる者とも戦えたんだ。
みんながいたから。
僕が超人だからじゃない。一緒に戦ってくれる仲間がいたから。
決して絶望せず、勝利を信じて戦える友がいたから。
僕の今があるんだと思う。

自分を信用してくれる人がいるからこそ、自分を戒める事も必要だと思う。
僕が僕自身であるために。
もはや、この力は自分なのだから。
否定もできなければ、切り離すこともできない。
それが僕なのだから。




吐き捨てた息と共に思考をクリアにする。
ほてった体も、ゆっくりと冷やされていく。
タオルで、体をくまなく拭いていく。
地面に無造作に置かれた手紙。
今朝届いた僕絵の手紙。
トロデ王からの手紙。
内容は大体想像は付く。
封筒の封印を、ゆっくりと剥がす。
形が違う2種類の手紙
短い手紙と、分厚い手紙が入っていた。差出人は2人だ。
トロデ王と、ミーティア姫。
来月にはかならず呼び戻す。
という内容が、トロデ王の手紙には書かれていた。
もう、いんですか?
と思わず突っ込みたくなるような短い内容だった。
もう一通には、ミーティア姫の寂しい気持ちと、僕を思う気持ちが延々と書かれていた。
二人にはすごく心配させてるなぁ。
でも、先週二人してお忍びでここにきたばかりのような気もするんだけどなぁ・・・・。手紙を読み終えると、封筒に丁寧に折りなおして仕舞い込む。
瞳を閉じて思い出す、ある事件の事だ。
僕がここにくることになった訳。






約2ヶ月前。
僕は、結婚式場からトロデ王と共に、ミーティア姫を連れ出し、トロデーンの城に帰って来たという事件を起こした。
普通なら国交断絶、賠償問題。果ては、戦争にまで発展しかねない問題だ。
そこは、トロデ王の手腕の凄さなんだろうか。
僕が、サザンピークの王族の血を引くというのもあったからなのだろうか、トロデーンからの、僅かばかりの賠償と、僕の役職解任および、リーザス村での無期限身柄拘束という事でケリが付いた。
もっとも、トロデーンでの現在僕の役職は近衛隊長から、近衛兵に降格で、給与もトロデーンから毎月送られてくる。
拘束といわれても普通に外に出歩けるし、トラペッタぐらいなら、ゼシカの買い物にも付き合って同行できる。
ほとんど野放しといってもいい。
トロデ王からは、
「ほとぼりが冷めたら戻ってきてもらうからの。それまでは、リース村で休暇でも楽しんどくれ。」
と、ゼシカの家に居候出来る様に手筈してもらったほどだ。
トロデ王としては、連絡がしやすいところにいてもらうほうがよかったんだろう。

そろそろ体が冷えてきた。屋敷に戻るとするか。
僕は、壁に手をついて腰を浮かす。
ガチャ。
視線をその音の方へ移す。
屋敷のドアが開いて、そこから見慣れた姿の女性が現れた。
旅の途中幾度と無く支えあい助け合った。
そのときと変わらぬ姿で彼女はたたずんでいた。
「ゼシカ。」
思わず声に出して名を呼んだ。
彼女は僕を見て、
「エイト、ここにいたんだ。今日は急に姿が見えなくなったから。」
ゼシカは、僕の方へと歩んでくる。
僕は完全に立ち上がり、ズボンのポケットに手紙を無造作に押し込んだ。
そんな僕の姿を視線で追いながら、
「手紙?王様から?」
興味ありげにゼシカは聞いてきた。
「うん、そうだよ。トロデ王と、ミーティア姫から。」
僕の言葉に、ゼシカの片方の眉が一瞬動く。
「ふ、ふーんそうなの。」
明らかに不機嫌な声に変わる。
なんでだろう。
ゼシカは、僕と話してると突然不機嫌になる。
特にトロデーンでの昔話とかしてるときとか。
ひょっとして、ミーティア姫の事をかんぐってる?
確かに、ミーティア姫は、僕の大事な人だ。
でも、恋人とかそういうのじゃない。
愛情と友情の間的な、家族に対してや、幼馴染に対する情みたいな・・・・。
だって僕は・・・・。

「大した内容じゃないよ。」
それを打ち消すように、
「だから、気にしてないってば。」
間をあけず、ゼシカが声をあげた。
「・・・・・・・・・・・・。」
気まずい空気だけが流れる。
「あ、聞いていい?」
僕は、唐突にひとつの事を思い出した。
「なに?」
相変わらず不機嫌な声で聞き返すゼシカ。
「さっき、ゼシカこういったよね、『今日は僕の姿が見えなくなった』って。」
僕は腕を組みながら、ゼシカを見た。
「言ったわよ?それがなにか?」
何を聞いてくるんだ。と言わんとした顔でゼシカは僕の問いに答える。
「じゃあ、『今日は』ってことは毎日窓から僕の事みてたんだ?」
僕の次の言葉に、あーーーーーーーーーーといわんばかりにゼシカは口をあける。
「・・・・・・・・・・・・。」
ゼシカの顔がみるみる間に赤くなっていく。
「い、い、いつもじゃないのよ。毎日、素振りの音が聞こえるから。ついつい。」
一気にゼシカがまくし立てた。
そうか、みられてたんだ。ちょうど、ゼシカの部屋の下になるしね。
好意の視線というのは以外に気が付かないものなのかも知れない。
「いや、僕も変な意味で聞いたんじゃなくて・・・・・・。その・・・・。」
「その?」
ゼシカが、言葉に詰まる僕に聞き返す。
「気にかけてくれてて、ちょっと嬉しかったりしたんだ。」
僕は、笑顔で答えた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ゼシカが僕を見つめたまま動かない。
「ゼシカ?」
「な、なんでもないわよ。」
取り繕うように、右手を振って答える。
そして、ゼシカは、左手を右手に添えてきゅっと握り締めた。
「そ、そうだ、その剣、自分の手と同じみたいに使いこなしてるわね。」
ゼシカが、剣を指差す。
「うん。すごく剣の重心がよくて、安定してる。グリップは換えたけど、それ以外は全然手入れが行き届いてて、ほんと使い易いよ。」
僕は、ありのままに感想を述べた。
「やっぱり、兄さんの剣はすごいんだ。実は剣が兄さんの部屋にいっぱいあってね。エイトが、素振り用に剣をかして欲しいていったとき、実は適当に拝借してきたの。」
ゼシカは、小さく微笑んだ。
「サーベルトさんの剣か。」
立てかけた剣に手を伸ばす。
ゼシカのお兄さん、サーベルトさんを思う。
会った事はない。でも、村を守る剣士だったと聞いている。
素晴らしい戦士だったとも。
この剣は、すごく手入れされていて、サーベルトさんの人柄が感じられた。
しかし、7賢者の血を引く事で、ドルマゲスにその命を奪われた。
僕は、ゼシカに次の言葉を捜す。
何を語っても、サーベルトさんの事になりそうだったから。
ゼシカには、まだ癒えていない傷。
僕なんかが、軽々しくサーベルトさんを語ってしまうのは、何か違う気もする。
きっとゼシカは、そんな事は気にしないでくれるだろうが。
僕は、どうしてこんなにも、ゼシカに対して臆病になってしまったのか。
理由はわかっているんだ。
ゼシカは、僕にとって特別なんだ。
安らぎ、憧憬、煌き、僕をとらえて放さない。
ゼシカは強いと思う。美しいと思う。そして守りたいと思う。
ほかの誰よりも、ゼシカを独占したい。
ここに来て、それに気づかされた。
だから、嫌われたくない。
僕を見てほしい。
ほかの誰かにゼシカを渡したくない。
こんなに、自分が誰かを好きになるなんて思ってなかった。
あまりの独占欲に、自分が嫌になる。
「どうしたの?」
剣に手をかけたまま動かない僕に、ゼシカはいつのまにかすぐ横にやってきていた。
「サーベルトさんには、勝つにはどうしたらいいか考えてた。」
今なら言える気がする。
僕の想い。
それが、ゼシカの重石になるかもしれない。
自分が告白することで、楽になりたいのかもしれない。
でも、このまま立ち止まりたくはない。
僕はゼシカが好きだから。
彼女の返事が欲しい。

「何それ?」
ゼシカが眉をひそめる。
「僕は、ゼシカが好きなんだ。この世界で誰にも負けないくらい。」

ザァ。と、風が流れる。
雪が、僕とゼシカの僅かな間を流れていく。
「え!?」
ゼシカの目が大きく開かれる。
「サーベルトさんは、ゼシカの大切なおにいさんで、まだ、ゼシカの中でその存在は大きいとおもう・・・。」
一呼吸ついて、
「だから、迷ってた。ゼシカに自分の気持ちを伝えるのが。僕も戦士だ。近衛兵で、戦争になったら真っ先に戦場に立つ。いつ死ぬかわからない。でも、好きな気持ちを抑えたくない。僕は、ずるいよね。」
右手をみて、ぎゅっとコブシを固める。
「今は、謹慎中じゃない。」
ゼシカの、場違いな返事が返ってくる。
「そ、そりゃそうだけど。」
僕の、両肩が落ちる。
フフフと、ゼシカは笑うと猫のように目を丸めて、
「それより、もう一回言って!」
ゼシカが、僕ににじり寄る。
「え!何を。」
息が、かかるくらいにゼシカが迫る。
僕の視界にはゼシカしかうつらない。
「私の事好きなら、私の顔を見て、ちゃんと言ってよ。」
真っ赤にそまった頬で、僕を見つめるゼシカ。
その真っ直ぐな視線に、心ひかれる。
僕の生きる意味はここにあるんだとわかる。
彼女のために、僕は生きたい。
「ゼシカ。」
僕は、ゼシカに向かってその瞳に吸い寄せれられるように、ただ、ゼシカを見つめていた。
「ゼシカ、好きだ。君が欲しい。」
心のままに、僕は言葉をつむぐ。
ゼシカは、目を見開き真っ赤になって、僕を見つめなおす。
あ、ストレートに言い過ぎたか・・・・。
しかも、欲しいって。
調子に乗りすぎたかな。僕は・・・・。
思わず、心に汗をかく。
「私だって、エイトが欲しい。だってエイトの事好きだもん。」
ゼシカは、両手を伸ばし、僕の胸に抱きついた。
「僕、汗掻いてるから、抱きつかない方がいいよ。」
僕は、ゼシカの方に手をかけ、体を離そうとする。
「平気よ。エイトだったら、なんだって平気。」
そのゼシカの一言に、僕の体は動けなくなる。
多分、耳まで真っ赤だ。
だめだ、僕は勝てない。
好きな相手に、そんなこと言われたら理性たもっていられない。


限界です。神様。


ゼシカの頬に手をあて、唇をなぞる。
その僕の指の動きを、目で追うと、ゆっくりとゼシカは瞳を閉じる。
雪の振る中、僕らの触れ合う部分は、何よりも熱かった。




その声も、そのしぐさも、誰も見たことのない、妖艶を。
お互いの愛の調べは、高鳴り続けた。





雪。

昨日とかわらず、窓の外には鉛色の空と、そこから降り注ぐ音の無い来訪者。
白い粉雪は、窓に付いては溶けて消える。
目が覚めた私の吐く息が白く伸びる。
「さむい。」
私は胸元から毛布を頭まで引き寄せて被ると、もう一度まどろみの世界に還ろうとした。
そこで、自分がなにも身に着けていない事に気づく。
ベットの下には、昨日の情事を示すかのように、衣類が散乱している。
「・・・・・・・・・。」
私は、ゆっくりと寝返りを打つ。
その視線の先には、見慣れた顔があった。
幸せそうに寝息をたてている。
右手で、そっと、彼の頬をなでる。
すこしだけ、彼は身動ぎする。
「ふふふ。」
笑みがこぼれた。
こんなに、幸せな事があったんだ。
幸せを感じる事を、随分忘れていたいた気がする。
好きな人と触れ合える事が、こんなに幸せだったなんて。
そう思うと、私はエイトの寝顔を見つめていた。
彼が目が覚めるまで、飽きることなく。

これはきっと、私の新しい日課になりそうだ。







Fin











作者ざんげ部屋。

サッカーを中心にしたスケジュール管理はやめましょう<自分


今回は過去2作とかなりテイストを変えて見ました。
例えて言うなら、なかよし掲載から、花とゆめ掲載ぐらいのギャップイメージですが(笑)
よ、余計にわかりづらい!?(汗)
話が、少々大人っぽい内容だったので、意図的に変えてみました。



今回タイトルにもなっております、距離という単語の英語なのですが、
(血縁・身分などの)相違,懸隔,隔たり、(態度の)隔て,よそよそしさ,遠慮
という用途も使える英語だったんで、二人の距離、遠慮、隔たりなんかの意味を込めてつけました。

結構英語でタイトルつけるの好きだったりします(笑)


次回もがんばりたいと思います。アッカでした。


















多分、この話の続編予定。



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