強さ


「ほら、何考えてるんだ?行くよ?」
休憩中。そう言って差し伸べられたのは、エイトの手。驚いて顔を上げると、いつもと全く変わらないエイトの笑顔が眼中に飛び込んで来る。
全く、変わらない。
どうして?
「別に、何も。」
呟いて、顔をしゃんと上げて。此処はトロデーン城。滅びた、エイトの故郷。
どうして、何も言わないの?
エイトは辛い筈なのに。きっと、罪悪感も責任感も痛いほど、いや、押し潰されそうなほど感じて、逃げたいぐらいだと思うのに。
私だったら、もう泣いてると思うな。
自然と下がった顔をまた上げて。はっと息を呑んだ。
「エイト」
何も考えないで、言葉が先に出た。
辛かった。彼を見てると。いつも鎧みたいに強いエイトが、イバラに変えられた人に触れて、撥ね付けられるみたいに、棘が刺さって、ホイミも掛けないで。
自分だけ生き残った後ろめたさに苦しんで苦しんで、自分を苛めて苦しみを忘れようとしてるエイトを見るなんて、哀しくて堪らなかった。
「え?」
一寸だけ間を置いて答えたエイトは、くるっと振り返って、私と向き合ってる。
「ごめん。時間食っちゃったね。一寸考え事しててさ。急がなきゃいけないのに、ごめん。」
いつもの様に肩を竦めて微笑んだエイトの顔が、痛々しいほど哀しそうに見えた。微笑は消えて、彼の童顔が痛みに耐えている様に歪んで来る。
耐えてるのね。心の痛みに。
じゃあ行こう、と行って踵を返したエイトを、どうしようも無く、癒したいと思った。エイトは十分過ぎるほどに傷付いてる。
それでも、貴方は。
「なんで弱味も見せてくれないの・・・」
エイトがはっとした様に振り返って。
「え・・・」
困ってる顔。
「弱味が見たいの。」
ちょっと失礼?でも。
そんな事を言うのはエイトが好きだから。
すごく好き。ちょっと離れたらどうかなっちゃうほど、エイトが好き。
「君は、一体何を・・・?」
エイトはいよいよ途方に暮れて、首を傾げてる。私は勇気を出した。
「・・・っと。エイト。あの、私・・・。」
そして、いきなりエイトに顔を覗き込まれた。もちろん嬉しかったけど、私が何を言いたいのかさっぱり分からない様子に苛立ちを感じる。
「え・・・?ゼシカ?」
ほんとに困り果ててるみたいだった。
「私・・・」
何で分からないの?こんなに、好きなのに。
刹那。気が付いたら両腕をひろげて、何にも考えないでエイトに抱き付いてた。エイトは心臓が破れるほど吃驚したと思う。滅多に聞かないような、あっと息を呑む音がしたから。
「ゼシカ」
エイトが呟いた。
「っと、僕・・・」
声からはエイトの感情を読み取れない。
「あの、僕も・・・」
冷汗が流れた感じがした。
「好き。」
素直で、驚くほど清らかで澄んだ声。
必要以上に強く抱き竦まれて、私も吃驚した。体の内側から熱くなっていった。エイトもそうだなと、思った。
もう何も考えられない。ずっとこうしていたい。
力も根も強い人に抱きしめられて、嬉しいのか哀しいのか分からなかった。

 

管理人より
ありすさん、投稿ありがとうございました 恋するゼシカさん素敵です。 彼のことが好きだからこそ何かしてあげたいという彼女の気持ちがよくあらわれていて素晴らしいっ! ごちそうさまでしたw

 



アクセス解析 SEO/SEO対策