私たちは出会った



「じゃあ、私ここで待ってるから、準備が終わったらここに来てね」

 私がそう言うと、同年代の男にしては小柄で童顔のその男は頷いて、船着場から離れていった。
 
その隣を、身長はとても小さいけれど(もしかしたら、ドワーフなのかしら?)がっちりとした強面の男が付いていく。
 
傍目から見たら、強面の男が親分で小柄な方が子分って感じだけれど、事実は逆であるらしい。
 
その証拠に、強面の方が「あ、兄貴〜、待ってくだせぇ」などと言いながら、小柄な方に追いすがっている。
  世の中って分からないわ。それとも、ただ、私の常識が狭いだけなのかな?
  やがてその姿が見えなくなると、私はこっそりため息をついた。

「なんか、頼んだのはいいけど、どうも頼りないのよねえ」

 思わず呟いてしまう。



  ことの発端は、私の兄が何者かに殺される事件から始まった。
 
兄さんが殺されたのは、私の住んでいた村のお祭りで使われるリーザス像が祭られる塔の内部だったらしい。
 
私は真相を知るためにリーザスの塔に行こうとしたけれど、私は村一番の名士であるアルバートの家系で、その家の規則が、そして、母がそれを許してくれなかった。
 
私は、自分のことを慕ってくれる村の子供に協力してもらって、村を抜け出して、一人リーザスの塔に向かった。
 
けれど、リーザスの塔は普段は魔物がたくさんいて、ポルクとマルク――村を抜け出すために協力してもらった子供たちの事よ――は少なからず心配したみたい。
 
それで、彼らに頼まれて、わざわざリーザスの塔まで来てくれたのが、あの二人だった。
  塔の中では色々あった。
  あの二人のことを仇と勘違いしちゃったこと。
  リーザス像が教えてくれた真実。兄さんを殺した道化師の男、ドルマゲスのこと。
  そして、兄さんの声――

「兄さん……」
「準備終わったでがすよ」
「わっ」

 随分時間が経っていたらしい、何時の間にか目の前に立っていた二人が私のことを見ていた。
  今の顔、見られちゃったかな? 泣いてこそいないけれど、少し恥ずかしい。

「もう大丈夫なわけね」
「もちろんでげす。ね、兄貴?」

 私が努めて冷静を装ってそう返すと、『強面の男』が自身ありげにそう言った。
 
その視線は私の方ではなく、『兄貴』の方を向いている。私のことなんか全然お構いなしみたい。
  これなら、全然気が付いてないわよね。
 
ただ、『兄貴』のほうはそうじゃないみたい。頷きながらも、訝しげに私のほうを見ている。

「そ、じゃあ、行くわよ?」

 そんな視線に居心地の悪さを覚えて、私は彼に背を向け、船へと歩いていった。











 話の続き。
 
リーザスの塔の事件が終わった次の日。私は、いてもたってもいられず旅に出ようとした。
  もちろん母は反対したけれど、私はそれを押し切って勘当同然になって家を出た。
  目的は、敵討ち。あの男を、兄さんを殺したドルマゲスを、倒す。
 
そう言えば、村を探し回ったんだけど、私を探しに来てくれたあの二人は見つからなかった。
 
仕方なく彼らのことは諦め、私は勇み足で旅に出て、リーザス村に程近い、港町ポルトリンクに到着した。今、私のいる北の大陸から南の大陸に渡るために。
  けど、ここで問題が起きた。
 
最近、近くの海で巨大なイカの化け物が出るらしく、たくさんの船が被害にあっているらしい。
  そんな状態のため船は出せないそうだ。
  でも、それならそれで、その魔物を倒せばいい。
 
倒せる人間がいないなら、私自身が倒せばいいだけのこと。こう見えても、私は魔法使いの卵なんだから。
  けれど、

「アルベルト家のお嬢様に何かあったら大変だ。その申し出を受けるわけには行きませんぜ」

 だそうだ。
  そう、このポルトリンクの港もアルバート家の援助を受けて経営されている。
 
私にそう返してきた男は、つまるところ、アルバート家の『お嬢様』である私の身に何かあったら、ただじゃ済まないと心配しているのよね。
 
こんな時まで身分とか家系に邪魔されるの、とむきになった私が、船員と言い争いをしている時、あの二人が再び私の前に現れた。


「しっかし、少々変な話でがすよなあ。嬢ちゃんが戦いに参加するのはダメでも、見ているのはいいだなんて」

 私が回想していると、突然『強面の男』がそう言った。

「体面の問題よ。
 アルバート家の『お嬢様』にモンスター退治をさせました。なんて広まってしまったら、船員達にとって都合が悪いんでしょうね。 全く、非常事態でも身分、家柄……って、イヤになっちゃうわ」

 機嫌が悪くなって怒る私に、『兄貴』は困ったような表情を浮かべていた。



 
やがて出航の準備が出来て、船員が大声で、出航だ! と叫んでいるのが聞こえた。
  碇を外し、帆が下りる。
  風が吹いて、私の赤髪のツインテールを揺らす。
  出航自体はとても静かなものだった。
 
船がでてからしばらくは、何も起きなかった。この付近に、凶悪な魔物が潜んでいる事など微塵も感じさせぬほど、海は平和そのものだ。
  けれど、それは見た目だけ。
 
私は、遠くに見える港町と、それ以外の全てを支配する青い海と空を油断なく見回しながら、魔物の姿を探していた。
 
あの二人も、他の船員たちも、緊張した面持ちで油断なく周囲に警戒の目を向けている。
  けど、件の魔物が出るという海域に出ても、全くそれらしい気配はなかった。
 
船員達も緊張疲れしたのか、拍子の抜けたような表情になっている者が、現れ始めた。
 
そんな中で、『兄貴』の方は、未だ警戒の色は抜けていなかったが、その子分の方はそうでなかったみたい。
  たまりかねて、私にそっと話しかけてきた。

「本当にこの辺りでいいんでがすかねえ……全くそれらしい気配が――」

 ない。と、男がそう言いかけた時だった。
  グラッと、軽い揺れが起きて、次の瞬間、

「うわわっ、出たあ」

 船員の情けない声とともに、船全体が大きく揺れて『ソレ』は姿を現した。

「おいおい、誰に断ってここを通ってんだ?」

 どうやって覚えたか知らないけれど、姿を現した『ソレ』――巨大なイカの化け物は、文句をつけるようにその巨大な体を揺らしながら、人間の言葉でそう言ってきた。
  『兄貴』は既に、剣を構えてて、厳しい表情で化け物を見ている。
 遅れて気が付いたように、『強面の男』も棍棒を手に構えとった。
  けれど、向こうはそんなこと気にする様子もなく、ただ一方的に話を続けている。

「だいたいよ、いっつも思ってたんだ。勝手に俺の頭の通っていきやがってむかつくよな」
「ああ、むかつくむかつく」
「そんな、むかつくやつらを食っちまってもかまわねえと思わねえか」
「ああ、かまわねえかまわねえ」

 イカの化け物は、自分の足を二本使って目のまえで器用にくねくね動かしながら、まるで腹話術をやっているみたいにそう話した。
  なんなのかしら、コイツ。
  私がそんなことを考えているとは、微塵も気が付かずにそいつはつづけた。

「じゃあ、食っちまうか」
「ああ、食っちまえ食っちまえ」

 そこで一度、ぴたりと動きを止め、

「ま、そういうわけだ」

 その言葉を皮切りに、化け物はこちらに襲い掛かってきた。
  洗礼とばかりに、たくさんある足を波のように叩きつけてくる。
 
あまりにも激しすぎて、二人は避けたり攻撃を払ったりすることに精一杯で、攻撃に転じる事が出来ない。

「って、かわすのはいいけど、船もつんでしょうねえっ、ホントに」

 船に足が叩きつけられるたびに、大きく揺れる船。
  不安定になっていく足場に、二人はどんどん不利になっていくように見える。
 
『兄貴』が、それを悟ったのか。攻撃をぎりぎりにかいくぐって、イカに迫る。けど……

「おっと、甘いわ」

 嘲笑うように、イカ。すぐ近くにあった足で、軽く彼を払い飛ばしてしまう。
 
軽く、と言っても、イカにとっては軽くで、人間の身である彼には十分すぎるほどの力。
  大きく吹き飛ばされて、船に積んである荷物に突っ込んでしまった。

「あ、兄貴ッ」

 『強面の男』が叫ぶ。
 私も、思わずかけよって声をかけようとしたけど、彼はすぐに起き上がって、イカに向かって行ってしまった。

「兄貴、無事で!」

 『強面の男』の声に、彼は頷いて、敵に向き直った。
 相手は、相も変わらず足の波状攻撃を仕掛けてきた。
 余裕が出てきたのか、その動きにはからかいのようなものが含まれている気がする。
 その証拠に、

「くっ」

 吹き飛ばされる『強面の男』。けれど、その威力はたいしたものじゃなく、まるで痛ぶるように、威力を絞っている。
  『兄貴』の方も、じわじわと押されている。
 
イカに表情なんてあるのかしらないけど、その時、私にはイカの化け物がいやらしい笑みを浮かべているように見えた。
  これは、そろそろヤバイんじゃないかしら。
  私はそう思って、こっそり呪文の詠唱を始めた。
 
船員に手は出すなって言われてたけど、知るものか。私は、私のやりたいようにやるんだから。
  決意して、前を向く。その瞬間。
  私のほんの目の前に『兄貴』――彼が吹き飛ばされてきた。

「ねえ」

 私は、呪文でチャンスを作るから、その隙を狙って一気に決めて。そう言おうとした。
 
言おうとしたけど、一瞬見えた、彼の目。苦悶の表情を浮かべているけど、その目は、瞳は、まだ諦めていなかった。
  何かを振り絞るように表情を強くして、イカを睨みつけている。
 
私はその強さに押されて、「ねえ」の続きが言えず、そうしている間に、彼は走ってイカに向かっていってしまった。
  思わずその姿を目で追いかけてしまう。
 
彼の剣さばきは、その辺の剣士くずれに比べれば、なかなかいい形に見えるけど、私の見てきた兄さんの剣の扱いから見てしまうと酷く幼稚だ。
  何度も吹き飛ばされて転ばされて、もうまるで相手になっていない。
  でも、その都度立ち上がって、負けずに剣を振っている。
  あ、また、やられた。
  私は、何か込み上げるものを感じて、思わず呪文の詠唱を忘れてしまった。
 私の様子が分かったわけじゃないだろうけど、彼の動きに力強さが感じられるような気がした。
 
その子分も、彼に鼓舞されるように、少しづつ、攻撃を払いかいくぐって、イカに迫る。

「ほう、なかなかやるが、そろそろ飽きたな」

 イカの声。と、突然、激しい攻撃が急に止んだ。

「そろそろ終わりにさせてもらうか。とりあえずは――」

 言葉を切って、イカの濁った目が、キッと『強面の男』に向く。
  そして、
 
ゴオオっと音を立てて、イカの口から凄まじい温度の火炎の息が、彼に向かって飛んできた。
  当たる!
  私は、そう思って、思わず目を伏せた。
  ゆっくり目を開けて、さっきまで男がいた場所を見る。
  そこには、穴が開いていた。ぶすぶすと、煙を上げながら。
 
どうやら、威力が強すぎて、燃やす前に吹き飛ばしてしまったらしい。でも、そんな攻撃を人間が受けたら……

「くっ。い、一体? あ、兄貴」

 声が聞こえる。『強面の男』の声だ。
  よかった。無事だったみたい。
  穴から右に離れた場所で、『兄貴』に押し倒されるような形でうずくまっている。
  だけど、『兄貴』の姿を確認して、私を思わず口に手を当てた。

「その背中は!」

 焼けただれたその背中、致命傷ではないけれど、それでもこのまま戦闘を続けるのはつらいかもしれない。
  私は、冷静にそう判断しながらも、別の部分で激昂していた。
 
何やってるのよ。弟分思いなのはいいけれど、それで自分が死んだら元も子もないじゃない。
 
誰かを助けるためなら、自分が傷ついたっていいっていうの? それじゃ、まるで、兄さんみたいじゃない!
  そう思いながら、私は、自分で何に対して怒っているのか、全く分からなかった。

「ほうほう、余裕じゃねえか、他人を庇うなんてよ」
「て、てめえ、よくも兄貴を……!」
「うるせえな。こっちこそ、よくも俺の炎をかわしてくれたな? 一度、吹いちまうとしばらく出せなくなっちまうってのに」

 不機嫌そうにそう言って、足を大きく振りかぶる。
  とっさに気が付いたのか、『兄貴』は弟分を両手で突き飛ばし――
  バシィと高い音を立てて、水平に吹き飛ばされた。

「てめえ、一度ならず、二度までも。決めた、最初に止めをさすのはお前だ」
「くっ、兄貴、今、助けるでがすッ」
「おっと、させるかよ。お前は、ここで見てな」

 二人の間を阻むかのように、イカの足が邪魔をして『強面の男』は、『兄貴』に近づくことが出来ない。

「くそっ、邪魔するんじゃねえっ」

 『強面の男』は叫ぶけれど、イカの足は複数で襲い掛かってきて、進むどころか逆に押し飛ばされてしまう。

「それじゃ、ジ・エンドだ」

 イカの足の一本が、『兄貴』の頭の上で止まり……いけないこのままじゃ!
  彼は、火傷とさっき吹き飛ばされたダメージで、まだまともに動けない。

「危ない!」

 私は、叫んで、思わず呪文を解き放った。

「なっ、ぐわああッ」

 急に唱えたから、威力は弱いけれど、放った火球は、イカの目のあたりで炸裂した。やつは苦しげに呻いて、足を滅茶苦茶に振り回しだす。
  ぶんぶん振り回すからかなり危険だけど、命中率は酷く低い。今なら!
 私が何か言おうとして彼を見ると、彼はこちらを向いて、微笑しながら何かを言っているように見えた。
 足の暴れる音で、その声は聞こえないけど。

「ッ……こんな時に、お礼はいいから。今よっ」

 全く、律儀なんだか、マヌケなんだか。でも……

 
彼は、走る。甲板を駆け、暴れるイカの足を掻い潜り、そして、強く地面をけって、跳ぶ。
  一瞬でイカの顔に肉迫すると、そのまま剣をその眉間に突き刺した。
  ぐおおおおおおおッ、と地の震えるような声を上げて、イカの化け物は沈黙した。











 港町に向かう船の甲板の上で、柔らかく吹き付けてくる潮風に身を任せながら、私は大きく伸びをした。
  視線を感じる。振り返ってみると、そこにはあの二人の姿。

「もう大丈夫なの? さっきまで、もうへとへとだったのに」
「このヤンガス。あの程度の怪我じゃあ、ビクともしないでがすよ。って、何でがすか、その目は?」

 『強面の男』の男は、やっぱり自身満々でそう言った。ふぅん、ヤンガスっていう名前なんだ。
 
もう一人の方は、何て名前なんだろ? 私はにわかに興味を持ったけど、急に名前を聞くのもはばかれて、そのまま続けた。

「さっきまで、あんな憔悴しきってたくせに」
「うっ、そ、それは……」

 狼狽するヤンガス。
 
となりで、彼の『兄貴』も、照れた表情でバンダナの上から頭をかいている。素直そうな表情だな、と私は思った。
 
最初に見た彼の第一印象は、頼りなさげな男だったけれど、魔物との戦いの事もあるし、少し見直してやってもいいかもしれない。
  ヤンガスも、見た目と違ってきっといい人なのね、口がでかいのはアレだけど。

「そ、それはともかくとして、まさか、あんな魔物から有益な情報が聞けるとは、夢にも思ってなかったでげすよね、兄貴?」
「有益な情報?」
「そうでげす。あの道化師のことでがすよ」



 話は少しさかのぼるけれど、倒された魔物はしばらくは動かず船に張り付いたままだった。
 
船を動かそうにも、このままではまともに動かせず、どうしようかと船員達が思案していると、突然、今まで気を失ってたみたいに静かだったイカの化け物の目が開いた。
 
最初は、また襲い掛かってくるのかと、船員たちも警戒し、あの二人も私も戦闘態勢をとった。
 
でも、目を開いたイカはそれ以前とは、打って変わって人(?)が変わったみたいに、馴れ馴れしい口調で私達に、何故船を襲っていたのか説明を始めた。
 
彼(?)の話によると、ある日、いつものように、イカは海の中から空を見上げていたらしい。
 
その日も変わらぬ空を見上げながら、ぼけーっとしてたそうな。ただ、その日は異変が一つだけあった。
 
イカが空を見つめていると視界の端に、何か影が映ったらしい。よく見てみると、その影は人のものだった。
 
その人影は、すぅっと、まるで海を歩くように動いていて、やがて、イカの真上を通り過ぎようとした。
 
イカは、そんな人影に対して腹を立てて睨みつけてやったが、逆に睨み返されてしまい、それ以来、何か呪縛にかかったように怒りが納まらなくなってしまったのだという。
  船を襲っていたのは、そのせいだと言う事ね。
  そして、イカはこう付け加えた。

「しっかし、不気味でしたなあ。そう言えば、あれはたしか、道化師の姿をしてましたな。そのまま、南の大陸に向かって行っちゃいましたけど、何も海の上を歩かんでも」



 そうだ。あの道化師は、南の大陸にいる。
「道化師……!」
「そう言えば、嬢ちゃんもあの男を追ってるんでがしたね。何てたって、嬢ちゃんの兄貴は、アイツに――」

 そこで、ヤンガスは『兄貴』に強く肩に手をのせられて、驚いたようにして彼の方を向いた。
 
そこには、普段の優しげな風貌の彼とは違ってちょっと厳しい顔が、無言で首を横に振っている。
  ヤンガスは、しまった、と言う顔で、そのまま黙ってしまった。
  気まずい雰囲気のまま、船が港町に止まるまで、私達は何も話さなかった。
 港町に着いてからも、私達は意図的に道化師の話題は避けて、別の話をした。
  その日は、二人はポルトリンクで宿を取り、私も同じ宿に止まった。
  ああ、そう言えば……

「また、謝るの忘れちゃった」

 夜になってベットに入ると、そんな思いがふっと沸いてきて、その日は、寝るのが少し遅くなってしまった。











 朝、起きて、港に向かうと二人はすでにそこにいた。
  おはようと、軽く挨拶して、私は意を決して言った。

「ねえ、あの道化師、ドルマゲスのことだけど、理由は知らないけど、あなた達もアイツを追ってるんでしょ?」
「ん? ああ、そうでげす。まあ、正確に言うと、追っているのは兄貴のほうなんでげすけどな」

 そう言って、ヤンガスは『兄貴』を仰ぎ見た。
 
『兄貴』は頷きながら、私のほうを見ている。何となく、彼は私が次に言おうとしてることが分かっているのかもしれない。

「よかったら、私もあなた達の仲間に加えてくれないかしら? 同じ、ドルマゲスを追う者として」
「う〜ん、女連れでげすか、アッシ個人としては、あまり進まんでげすけど、兄貴、どうしましょう」

 ヤンガスに問いかけられて、彼は一瞬の思案顔の後、彼は微笑を浮かべて手を差し出してきた。

「あー、やっぱり、兄貴ならそうすると思ったでげす。ま、アッシは兄貴の判断に従うまででげすけどね」

 ヤンガスがあきらめた口調でそう言った。
  私は、そっと差し伸べられた手を握り返して

「うん。ありがとう」

 そう言った。
 
彼らの戦いを見るまでは、私は一人で刺し違えてもドルマゲスを倒そうと考えていた。
 
例え、志を同じくするものがいたとしても、アイツと戦って倒すのは私だけで成し遂げたいと、そう考えていた。
 
今でもその気持ちはあるけれど、二人の戦いを見て、ほんの少しだけ私の考えにも変化が現れた。
 
あんな風にボロボロになってまで、アイツを追う理由。きっと、それは私と同じように深い何かがあるのかなって思った。
  それに、絶望的な状況になっても決して諦めなかった瞳。
 
まるで兄さんみたいなあの瞳を持った人となら、仲間としてやっていけるって、そう思った。

 
そっと手を離して、私はずっと言わなきゃと思いながらも、タイミングが悪くて言えなかった言葉を思い出した。

「そう言えば、まだ謝ってなかったよね? 塔で誤解しちゃったこと」

 きょとんとした顔つきの二人。
 
今の今までまるっきり忘れてたって顔だ。こういうのって、忘れっぽいっていうのかしら? それとも、人がいいっていうのかしら?
  私は、一度、深呼吸をすると、

「すいませんしたーーッ」

 どっかの武道の礼みたいな動きをして、大きな声でそう言った。
 
なんか、ちょっとだけ恥ずかしくなって、上目遣いでこっそり二人の様子を眺めてみる。
 
二人は、圧倒されたような表情をして固まっていた。けれど、それも一瞬の事で、次の瞬間には笑い声があたりに響いた。
  ヤンガスはバカみたいな大きな声で。『兄貴』は笑いをこらえるように控えめに。
  くっ、な、何がそんなに面白いのかしら。
  余計に恥ずかしくなって、私は焦り交じりに声をあげた。

「な、何がそんなに面白いのよ。せっかく、人が素直に謝ってるって言うのに」
「いや、まあ、何でげすかねえ……腹いてえ」



 ひとしきり笑って、やっと静かになった後、

「そうだ。仲間になるのに、互いに名前知らないなんておかしいわよね。私は、ゼシカ。ゼシカ・アルバートよ」

 私は、言った。
  ヤンガスは、ああ、そう言えばなどと言いながら、自分の胸を叩きながら言う。

「アッシはヤンガスでげす」

 そしてから、ちょっともったいぶりながら、ヤンガスの隣にいる『兄貴』を仰いだ。
  私も、視線を移して彼の方を見る。
  最初に見たときと変わらず、どうも頼りなさげな風貌の彼。
  けれど……その瞳の奥に、決して諦めない勇気があることを、私は知っている。
  ヤンガスは一拍置くと、彼の『兄貴』を見ながら言った。

「そして、こちらが――」



  こうして――私達は出会った。






あとがき:

どうも初めまして。機会あって、このSSを投稿させてもらったYoshiと申すものです。
主ゼシ同盟に最初に投稿するのが、こんなラブが全くないようなSSでいいのかなあ? とか思ったりもしましたが、やっぱり私個人としては、出会いというか、ゼシカが主人公パーティに入る時の話は外せなくて、こうしてSSにさせて貰いました。
ゲーム内のストーリーとは詳細が結構違いますけど、私の中で、あそこはこういう物語になっているといいなあ、と自己保管されていたりします。
SSでも書いていますが、主人公に出会ったばかりの頃って、ゼシカは主人公に対してあまり頼りになるって印象持ってなかったと思うんです。
頼りなさげな男、これがゼシカの主人公に対する第一印象だったのではないか、と。
ゲーム内でも、巨大イカを倒したときにゼシカが「あんまり期待してなかった」と言っているので、あながち外れでもないんじゃないかなあ。
で、そんなゼシカが彼らの戦いぶりをみて、主人公に対して実は頼れる人なのかも、と少しでも思うようになったのではないか、と考えて、そんな変化というか心情をSSにできたらなあ、と、そんな話を書かせていただきました。
ほんの少しでもその辺りが伝わっていれば、幸いです。

ところで、このSSはちょっと思うところがあって、主人公のセリフ、名前を書きませんでした。
アクションはあるが、セリフはない主人公。某荒野と口笛のRPGの主人公を参考にしてみたのですが(ぉ
そのせいで、かなり不自然になってしまっているところが多々ありますが、どうだったでしょうか?

中途半端になりましたが、それでは、ここまで読んでくれた方、並びに管理人様――ありがとうございました。



管理人コメント
こちらこそご投稿ありがとうございました。
もちろん、ラブがなくてもかまいませんよ。 お好きにお書きくださいね
ストーリーがアレンジされていて面白かったです。出逢いにはそれぞれ深い思い入れがありますよね。
僕も、Yoshiさんと同じく出会った頃、主人公はゼシカに”あまり頼りにならなそうな男”として見られていたと思います。 そこから少しずつ見方が変わって・・・そしてFall in love!!(スペルあってますか〜?)
出会いは始まりなりと思ったssでした


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