愛しいあなたへ〜愛をこめて〜




水のリングを手に入れたリュカとビアンカは、ルドマンの豪邸へそれを渡しに行った。
そして・・・そこで思いもよらぬことが起る。


フローラはリュカとビアンカの姿を見て胸がズキンと痛んだ。
あの二人はお互い想い合っているのではないかと・・・
そしてフローラは俯き加減で言った。

ビアンカはリュカのことを愛しているのではないか? それにリュカも・・・ と。

その言葉にリュカは何も言わずにただ俯いたままだった。
そこでルドマンから一つの提案が出た。
一晩ゆっくりと考えて明日、ビアンカかフローラどちらと結婚するか選べと。
この話はそこから始まる――

ビアンカはルドマンの別荘に泊まることになった。

リュカがビアンカのいる別荘に訪ねてきてきた。

ああリュカ あなたは明日、フローラさんと結婚しちゃうんだね・・・
ビアンカはそう思うと堪らなくなった。

「ねえ リュカ あなたに伝えたいことがあるの・・・ 外に行こう」
そう言ってリュカの手をひっぱって外に出た。
そしてサラボナの中央にある噴水のところまできた。
そこは月の光が水に反射してとても神秘的だった。

最後にリュカに伝えておきたいことがある
リュカと別れる前にこれだけは伝えておきたい

「ねえ、リュカ? 今からわたしが言うことはリュカに対する私の本当の気持ち
 別に聞き流してくれてもいいから・・・」

リュカは何も言わずに黙っていた。

「わたしはあの日のことを今も覚えてる。
 リュカと別れた日のことを
 リュカと別れて初めて気づいたわ。 
 楽しかったのはあなたが傍にいてくれたからなんだって。
 だから、わたしはあなたと別れてからとても寂しかった。
 別れてから毎日祈ってたよ。
 リュカとまた会えますようにって。
 
もう一度幸せがくることを信じて
リュカの無事を、リュカとまた会えようにって祈りながら生きてきたの。
 わたしの祈りは通じた。 あなたとまた会えた。
 あなたと出会えて本当にうれしかったけど すぐに切ない気持ちになっちゃった・・・
 あなたから結婚するために指輪を探してるって聞いたから。

 最後にもう一度あなたと一緒に冒険したかったから
 わたしはあなたについて行った。

 でも切な過ぎて、どうかしてしまいそうだった・・・
 あなたと過ごしている間にあなたにどんどん惹かれていった―
 好きになってはいけない リュカのことを好きになってはいけない 
 そう自分に言い聞かせた。 胸が張り裂けそうだった。
 けどあなたと冒険できて楽しかった
 あなたと会えて一緒に冒険できて久しぶりに心から笑えたわ。
 
 約束を守ってくれてありがとう。
 もうひとつの約束はいらない 
あなたと会えただけでじゅうぶんだから。

 リュカと出会えてよかった。
 今は心からそう思える。
 あなたと出会えたからよかったんだって
 やっぱりリュカと出会えてない人生は考えられないから・・・」
 
明らかに強がっているのがわかる、震えた声でビアンカは言った。
「わたしはこれからも一人で生きていく 心配しなくても大丈夫 わたしは強いから・・・
 リュカがいなくても大丈夫だから・・・」
 
「私は過去の人間・・・ だからわたしといると昔のつらいことを思い出しちゃうでしょ?
 だからわたしはあなたと一緒にいれないの リュカには前を向いて歩いてほしいから 
 でもね・・・もし後ろを振り返りたくなったらいつでもわたしのところに来て?
 温かく迎えてあげるから あなたの帰るところは一つじゃない 
 あなたの帰りをいつでも待っててあげる・・・」

リュカの目にもビアンカの目にも涙が溢れていた。

「ねえ、リュカ わたしが今からうたう歌、聴いてくれる?」

リュカは黙って頷いた。

 


去り行くあなたへわたしが贈る言葉
さよならだけではとても寂しいから
伝えたかったことを、想いをあなたに贈ります・・・・
きっと・・・・これが最後だから・・・・
この言葉をあなたに贈れるのはこれで最初で最後・・・・



リュカと過ごした日々を思い出しながらビアンカは歌った。
彼への溢れそうな思いを
今までの全ての想いを歌にのせた。



あなたと出逢えてよかった
今思えばあなたと出逢ったのが全ての始まり
思い出してわたしと過ごした日々を
あなたと笑いあった日々
一緒に遊んだ日々
一緒に冒険した日々
短い間だったけど
あなたと過ごせた幸福な時は今も色褪せず
わたしの胸の中で輝いている
まるで楽しい夢を見ているようだった
でも楽しい夢もいつかは記憶から消えていってしまうのだろう
この輝きを夢の記憶を失いたくない
あなたの笑顔がとても愛しくて
あなたの心はとても純粋で
そんなあなたのことを心から愛している
清らかな心 変わることなく輝き続け―

あなたが結婚してもわたしの想いは変わらない
あなたのことを愛し続けていたい
離れていてもあなたの心の中に咲いていたい
今はあなたのことを心から祝福できないけど
いつかきっと笑顔で祝福できるように
その時は心から笑い合おう 
わたしの分まで幸せになって――

いつまでもあなたのことを想っているから
あなたのことをずっと忘れないから
あなたもわたしのことを忘れないで――

これからは独りで
あなたの幸せを祈りながら生きていく
あなたの傍に居られなくてもあなたのことを想って
あなたがくれた幸せと優しさを胸であたためながら生きていく―


今はさよならしか言えないけど
いつかおめでとうの言葉をあなたに贈りたい
強くなったその日に
あなたとまた会えたその日に

今は哀しみの歌だけど
強くなって
いつか幸せな歌が歌えるように――


ビアンカは強く優しく切なげに歌った。


彼女は月の淡い光に照らされてとても神秘的で、美しかった。

リュカはビアンカに見惚れ、歌声に聞き惚れていた。

歌い終わったビアンカは大きな瞳に涙をいっぱいためて、寂しげな表情をしていた。
「ねえ、リュカ・・・わたしたちいつまでも・・・・友達でいようね」
リュカはまた黙っていた。
「無理矢理つれてきちゃってごめんね・・・」
ビアンカは声を震わせながらそう言った。


ビアンカに何か声をかけてあげたい・・・けど声が出せない。
今、何かを喋ると涙が出てきて、泣き崩れてしまいそうだから・・・

ビアンカは張り裂けそうな胸を必死におさえながら別れを告げた・・・・。

いつか・・・いつかきっとまた会って・・・笑い合おうね・・・・


「バイバイ・・・リュカ 
 明日は・・・・・晴れるといいね」


リュカはやっと重い口を開いた。
「うん・・・・そうだね」

リュカは宿屋に戻った。

ビアンカはあんなにも僕のことを思っててくれたんだ
うれしいな 
ビアンカ泣いてたな・・・それなのに僕は何もしてやれなかった・・・
声も掛けてあげられなかった

僕らは永い時を経て再会した・・・
あの桜の花びらが舞う村で
再会できた喜びで僕は涙を流した
ずっとビアンカに会いたくてやっと会えたから
ずっとずっとビアンカと一緒にいたい
もう愛しい愛しいビアンカから離れたくない

ダンカンが山奥の村でリュカに言った言葉が彼の頭に甦ってきた。

ビアンカは本当は寂しいんだ それなのにわしの前ではいつも明るく、笑顔で振舞ってくれる・・・
けど今は本当にうれしそうな顔をしているよ 
きっとリュカと会えてよっぽどうれしかったんだろうな



彼女を・・・ビアンカを一人にさせたくない
僕はビアンカの傍にずっといたい
けど、僕は天空の盾を・・・・



ビアンカはルドマンの別荘に戻った。

強くなろうとするけど本当はあなたと一緒にいたい。
あなたにずっと抱きしめられていたい。
あなたの傍にずっと一緒にいて傍で眠りたい。

彼女は別荘に戻り泣いた・・・。
明日のために泣いた。
未来のために泣いた。 
今、一生分の涙をながして明日から泣かなくてもいいようにしよう。
そう思うと彼と過ごした日々の思い出が走灯馬のように浮かんできた。

彼女がリュカと過ごした日々はとても短かった。
しかし、その日々が彼女にはとても記憶に残っているだろう。
何よりも大好きな人と過ごした日々なのだから・・・。


小さい頃は大きくなったらもっと楽しいことがいっぱいあると思ってた。
でも、違った。
あなたと別れて・・・・周りの光が・・・・消えたような気がした。

背が随分と高くなって、体が逞しくなって、肌が日に焼けたリュカがわたしの前に現れた。
大好きなリュカに会えた。
けど・・・リュカはもうわたしの手の届かない存在になったような気がした。
あの頃とは全然違うリュカの姿・・・・

「あの頃に帰りたいよ 寂しいよリュカ
 わたしこれからどうすればいいの?ねえリュカ!
 私の幸せはどこにあるの?」
ビアンカは夜空に向かって泣き叫んだ。 
泣きつかれて眠るまで彼女は泣き続けた。
そして眠った彼女は夢を見た・・・。
楽しかった 輝いていた頃の夢を

ビアンカとリュカと遊んでいたが疲れて草むらに寝転がった。 

「あーあ こんな楽しい時間がいつまでも続けばいいのにね。 ねえリュカ」
そう言ってリュカを見た。

リュカは、無邪気に笑った。
「うん そうだね」 
 ずっと ビアンカと一緒に過ごしたい。
ねえ、ビアンカ 大きくなったら僕と結婚して?」

「リュカったら意外とおませさんなのね」


ビアンカはリュカの言葉がとてもうれしかった。
少しお姉さんぶることを忘れて言った
「うん リュカが大きくなったら結婚してあげる。
約束よ?」
そう言って小指を絡ませた。
これがリュカと交わしたもう一つの約束・・・ 。

彼女もまたリュカとずっと一緒にいたいと思ってたのだ。
ビアンカの止まっていた涙がまた流れ出した――


夜が明けた。

今日は運命の日。
リュカが結婚相手をフローラにするかビアンカにするか選ぶ日だ。
ビアンカとリュカはルドマンの豪邸によばれた。
ルドマンは真剣な表情で言った。
「さて、三人ともそろったな
 さあリュカ、ビアンカさんとフローラどっちを選ぶんだ?」

ビアンカは目を閉じて覚悟を決めた。
彼女が大好きなリュカと別れる覚悟を・・・。

さようなら・・・リュカ・・・ いつまでも幸せに暮らしてね・・・


運命の別れ道 
リュカは迷うことなく
人生の伴侶となる人をしっかりと見つめて言った。


僕と結婚してくれますか?――





エピローグ――
僕は今ミルドラースを倒してグランバニアの王をしている。
とても忙しいけど 家族がいるから頑張れる。


「あら、あなた どうかなさいました?」
愛しい人の声が聞こえた。



けどいつもと違う・・・

「どうしたんだよ ビアンカ 何かあった?」

「何かあったじゃないわよ!!
 まさか 今日が何の日か忘れたの!?」

「え・・・・まさか・・・」
僕はビアンカに気づかれないようにチラッとカレンダーを見た。
げっ!! 今日は結婚記念日だったんだ 忙しすぎて忘れてた・・・ヤバイ!!

「ハハ・・・ま、まさか忘れるわけないじゃない
 今日は僕が大好きなビアンカと結婚した日だよね」

「そうよ! 
 今日はお城のみんなが二人でどこかに出かけておいでって言ってくれたわ
 ねえ リュカ どこに行く?」

「そうだね・・・アルカパに行ってみる?
 あそこは星空がとてもきれいだし
 ビアンカの故郷でもあるしね」
「そうね そうしましょう」

リュカたちは身支度をすませた。

「さあ 行こうか」
リュカはひょいっと彼女の体を持ち上げた。


「ルーラ!!」



リュカたちは宿屋のテラスで星空を見上げていた。
「ふ〜 ここの料理おいしかったね」

「そうだね」

 ビアンカはそっと目を閉じてあの時を思い出しながら言った。
「まさか あの時はこんなに幸せになれるとは思ってなかったわ
 あの時はわたしはずっと一人ぼっちだと思ってた
 けど違った あなたがいてくれた
 母さんが死んでからわたしの心は凍ってたような気がする
 でも、あなたがその心をとかしてくれた
 
あの時はあなたと別れる覚悟をしていたのにね・・・
いま、そのあなたと一緒にいる
何か嘘みたい
 

あなたがが言ってくれた言葉は今でも覚えている
だって今まで聞いた言葉の中で一番うれしかったから
あなたがあの時言ってくれた言葉は私の宝物だよ? 

“やっぱり僕はビアンカしか愛せない”って言ってくれたね
 ありがとう とてもうれしかった」

「僕こそビアンカにお礼を言いたい
 僕をずっと待っててくれて 僕と結婚してくれてありがとう
 幸せを運んできてくれてありがとう
 
 なぜ僕がこんなにつらい思いをしなければいけないんだって
 そう思ったこともあったけどつらいのは僕だけじゃなかった 
 ビアンカもつらい思いをしてたんだよね 
 なのにビアンカはずっと笑顔でいてくれた
 その笑顔のおかげで
君が傍にいてくれてここまで生きてこれた 
 本当にありがとう・・・」
 
「そうだ ビアンカの歌声をまた聞きたいな
 ねえ 何か歌ってよ」

「も〜しょうがないわね」
そう言ってビアンカは立ち上がり、リュカの前に立って歌いだした。
幸せでいっぱいの歌を
精霊のような歌声で

その歌声はアルカパ中に響き渡っていた。
そこは幸せな歌声で包まれていた。


ありがとうの言葉を
いくつ並べても足りないくらい
あなたと出会えた奇跡に感謝し
永い時をこえて
また巡り会えたことに
あなた選ばれたことに感謝し
皆に感謝して
これからも幸せに暮らしていきたい
永遠の愛を誓った人と
愛しい人との子供と
素敵な家族と共に
すばらしいグランバニアの人々と共に

みんなから愛されるあなたに愛されて
わたしはこの世界が滅びようとも
この身が滅ようともあなたを愛し続ける
わたしの愛を永遠に―

どんな言葉よりも
あなたに愛していると言われるのが一番うれしい
わたしは愛していると言う言葉よりももっと
あなたを愛している
愛していると言う言葉ではものたりない
愛しくて愛しくてしかたない
こんなにも愛しい人と出会えて
一緒に暮らせるわたしは幸せ
素敵な人といつまでも一緒にいたい
愛している人と暮らせる喜びを感じながら
いつまでもあなたの傍で眠りたい―



リュカはビアンカの透き通った歌声を目を瞑りながら聴いていた。


何度聞いてもいいな ビアンカの歌声は美しすぎだ 


まるで女神が歌ってるようだった。

ビアンカの歌がうたい終わった。

「やっぱりビアンカは歌が上手いね」

「フフ ありがとう」

「ねえ ビアンカ これからもずっと一緒だよ」
リュカがビアンカの腰に手をまわしビアンカの瞳を見つめる。

愛しい愛しい君だから
ずっとずっと一緒にいたくて
どんなことがあっても決して切れることがない
糸で結ばれていたい

「フフフ ビアンカ・・・・とっても綺麗だ」
「ありがと・・・・リュカ」
そう言ってお互いに唇を重ねた。


ビアンカの口いっぱいに幸せがひろがった――




リュカは幸せを運んできてくれてありがとうって言ってくれたけど
幸せを運んでくれたのはリュカのほう
あの時わたしが選ばれてなかったらきっとわたしの人生は全く違う方向をとっただろう
本当にリュカと結婚できてよかった
リュカに出逢えてなかったら わたしはどうなってたんだろう?
やっぱりそんなこと考えられないな・・・
リュカと出逢えて本当に本当によかった
もう愛しくて愛しくてしかたないリュカから離れたくない
リュカたちと幸せをかみしめながら残りの人生を精一杯生きていこう


世界中の誰よりもあなたのことを愛してる



歌えたよ
幸せな歌を
あなたが傍にいてくれて歌えた
幸せな歌を
愛しいあなたへ
愛をこめて
歌ったよ





これからもずっと幸せな歌が歌えますように
あなたとの愛が永遠に続きますように










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