―― 誰かの願いが叶うころ誰かが哀しんでいるかもしれない――


 


僕 はフローラに恋をしてしまった


フローラと会った瞬間、僕の体に衝撃が走った
そして僕とフローラはしばらくの間、見つめ合っていた
まるで無限回路の中にいるようだった 
抜け出せない・・・・この感情から




小さい頃にビアンカと傷つく怖さも知らずに誓ってしまった

ビアンカと結婚すると


でもビアンカとは結婚できない・・・・
僕はフローラのことをどうしようもなく愛している
だから僕はフローラと結婚する
自分勝手なのはわかってるけど
フローラのことを愛しているから・・・・

今から別荘に行ってビアンカに謝ろう


僕は泊まっていた宿屋を出て別荘に向かった

ビアンカが寝ないで起きていてくれるか心配だったけど、起きていて くれた


「どうしたの?ロイ 眠れないの?」

ビアンカはとても寂しげな表情でそう言った

僕の胸がとても痛んだ

言わなければいけない
ちゃんとビアンカに謝るんだ
そうしないとビアンカがもっと傷ついてしまうことになる

「ごめん ビアンカ・・・・あの時に誓ったことは・・・果たせそう にない・・・」

そう言った瞬間、ビアンカの瞳に涙が溢れてきた・・・

ビアンカは一筋の涙を頬に伝わせながらも、微笑んでこう言ってくれ た。
「なに言ってのよ、ロイ まだあの時のことなんか気にしてたの?
 そんなこと気にしなくても大丈夫 
 あなたが幸せになってくれればそれでいいのよ
 フローラさんを幸せにしてあげて」

僕の目からいくつもの涙が零れ落ちた
「本当にごめん ビアンカ」

ビアンカは僕の瞳を見つめて涙を拭ってくれた
「ほーら ロイ 泣かないの 私なら大丈夫だから
 幸せになる人が泣いてるなんておかしいよ
 さあ、笑って 最後に私にあなたの笑顔を見せてちょうだい」

今まで何度ビアンカに泣かないの、と言われただろう――

僕は昔のことを思い出しながら
ビアンカの優しさを感じながら
涙を流しながらも精一杯微笑んだ 


「よかった ロイの笑顔が見れて
 さあ、ロイは明日、結婚式があるんだから
 もう眠ったほうがいいわ 私はここでもう少し夜風にあたっとく わ」

「うん 風邪・・・ひかないでね
 じゃあ また明日」


僕は宿に帰る途中に別荘のほうを向いて何度も謝った

ごめんよ ビアンカ




私はロイが別荘を去った後もしばらく星空を見上げながら髪を靡かせ ていた


ロイったらわざわざ私のところまで謝りに来てくれて・・・
律儀なところは変わってないな

良かった 最後に私の大好きな笑顔が見れて・・・・
あの笑顔は昔と変わっていなかった
優しい瞳も変わってなかった


山奥の村でロイに会ったときは驚いたな
だってあんなに泣き虫だったロイがとても逞しくなってたんだもの

ちょっと寂しかった 
だってもう私の手の届かない存在になってしまったような気がしたか ら

明日からはもう本当に手の届かない存在になってしまう


泣き虫だったロイは逞しくなったけど私はダメね・・・



明日からは涙を流さずに作り笑顔でも未来へ向かって歩く 手を借り ずに一人で
ロイに無駄な心配はかけたくないから・・・
旅立つロイへ私ができることは何もないけれど強く生きるよ
優しいロイが躊躇わずに行けるように・・・


ロイと一緒に歩んでいくことを想像したけど・・・
ロイが幸せになってくれるのならそれでいいの



彼と過ごした幼い頃の記憶が頭に、瞳に一気に浮かんできた

楽しかった思い出
小さい頃は一緒に遊んだり冒険したりした
その時が今まで生きてきた中で一番楽しい時間だった


ロイは、泣き虫だった
そんなロイを無理矢理レヌール城に連れて行ったっけ
あのロイがピンチになればなるほど、とっても頼りになった
私を一生懸命護ってくれた 
私もレヌール城に行くのは怖かったけど ロイの瞳はとっても不思議 で見つめていると恐怖心が薄らいでいった
ロイと一緒にいると私の心が和んだ

ロイは泣き虫だけど、とっても優しくて頼りになった
そんなロイが私は大好きだった


ロイとまた会える日を心待ちにしながら今まで生きてきた
ロイのことを想って眠れない夜もあった
そんな時は、いつも夜空を見て流れる星に願った
はやくロイに逢えますようにって

本当は、ロイと結婚するのを楽しみにしてた・・・ロイと別れてから ずっと・・・
ずっとその日を楽しみにしながら今まで生きてきた

とっても大きくてキレイな教会で結婚式を挙げる夢を何度も見た
真っ白い豪華なウエディングドレスに身を包んで
ロイと手を組んでヴァージンロードを歩き
ロイに指輪をはめてもらい
誓いの言葉と口付けを交わして
みんなから祝福されて
そして愛するロイと一緒に歩んでいく夢を

でも、それは夢でしかない・・・・ 


そう言えば、昔も星空を見上げながらロイといろいろお話したよね

小さい頃にロイが言った言葉が甦ってきた。
「僕、ビアンカのことが大好き 
 ビアンカと結婚したい」

私の大好きな笑顔でそう言ってくれたっけ・・・

いつの間にか私の瞳からいくつもの涙が零れていた

もうロイの傍にいれないんだ・・・・
ロイの笑顔を見れないんだ・・・
 
 



「もう〜遅いよロイ」

「待ってよビアンカ 置いていかないで」

小さいころにいつもこんな会話をしていた
ロイはいつも私に“置いて行かないで”と言っていた・・・
あんなに置いていかないでって言っていたのに・・・・・・


―僕がおじいちゃんになってもビアンカと手をつないでいたい
 いつまでもビアンカと一緒にいたい―

何でもないことが幸せだったと思う
何でもない日のこと・・・でももう戻れない日
何でもない日のこと・・・でもそれが心に残ってる

あの日聞いた言葉をずっと離さないまま深い眠りに落ちたい
ロイがくれた幸福な時は今も色褪せずただ胸を刺す


――ロイと結婚する

その願いが叶うことはないのか・・・・?

無情にも、夜が明けようとしていた

彼との本当の別れの時は近い――





















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